Bb Beauty Knowledge #9
シリーズ血流のトリセツ vol.3
2024.2.16
毛細血管の老化は、45歳ころから本格的になります。肌やアンチエイジングにも大きな影響を及ぼす毛細血管力を高める方法を毛細血管の健康に詳しい、赤澤純代先生(金沢医科大学教授)に聞きました。
取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
私たちがちょっとした切り傷のときに出血する血管は、血管の中でも太目の血管です。この太い血管から枝分かれしたとても細い血管のことを毛細血管と言います。なんと毛細血管は、全血管の約95~99%も占めていて、体の隅々にびっしり張り巡らされています。毛細血管を含めた体中の血管を全部つないでいくと、その長さは約6~7万キロメートルにもなると言われているのです。
「毛細血管は、体にとって必要な栄養と酸素を運んでいます。この毛細血管は非常にもろく、更年期世代の45歳ころから老化によるダメージを受け始め、“ゴースト血管(無機能血管)”へと向かいます」と赤澤純代先生。
ゴースト血管とは、毛細血管がダメージを受けて先細り、やがて消失する現象のこと。
これまで、血管の老化や悪い生活習慣による血管の障害は、太い血管が動脈硬化を起こしたり、動脈の内膜に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などの脂肪がドロドロの粥状になってたまるプラークが破綻することによる、心疾患や脳卒中の危険性に焦点が当てられていました。
けれども、最近の研究では、動脈(太い血管)の何十~何百分の1の直径しかない毛細血管の老化が見える化できるようになり、さまざまな不調や病気の発症に関係することがわかってきて、注目が集まっているのです。
毛細血管がダメージを受けて、不安定になると、大事な栄養や酸素が血管から漏れ出しやすくなり、流れも滞るようになってきます。毛細血管にダメージがあると、栄養や酸素が必要な細胞に届かないだけでなく、新陳代謝やデトックスの働きも失われます。
全身を隈なく巡る毛細血管のダメージは、全身の血行不良はもちろん、皮膚、粘膜、関節、骨、脳、内臓、代謝や免疫にも密接に関係します。さまざまな不調や病気の原因につながるのです。
「毛細血管のダメージが進行すると、毛細血管は血液が流れない、ゴースト血管となり、血行不良だけでなく、毛細血管の数自体が減少してしまいます」と赤澤先生。
脳の毛細血管の数が減少すれば、認知症に。呼吸器で生じれば、呼吸機能の低下に。肝臓では肝機能の低下。骨格筋力の低下にも関係し、皮膚では乾燥、シワなどが起こり、骨では骨粗鬆症を引き起こす要因にもなります。ゴースト血管化は、生活習慣病、メタボリックシンドローム、動脈硬化からくる病気(心疾患、脳卒中など)、がん、自己免疫疾患、神経疾患とも関係してくると言われています。
毛細血管がゴースト血管化するのを少しでも遅らせることが、各臓器の老化を防ぐアンチエイジングにつながり、健康寿命を延ばすことになるのではと言われているのです。もちろん、皮膚や髪などの見た目のアンチエイジングにも、ゴースト血管化を防ぐことは大切です。
見た目と血管年齢は、相関していると考えられています。あなたの血管年齢をチェックしてみませんか?
チェックの数が多いほど、血管年齢が高くなります。毛細血管力が低下している可能性があります。
毛細血管力の低下は、血流が悪く、滞っていて、体に酸素や栄養素が巡らない状態です。病気や不調にも関係してきますが、血流が悪いことから、シミ、クマ、ニキビ、肌荒れなどの肌トラブルにも悩みやすい傾向があります。
では、毛細血管のダメージを防ぐには、どうしたらいいのでしょうか?
「毛細血管の老化やダメージ、つまりゴースト血管化を促進させる原因は、糖化(細胞の焦げ)と酸化(細胞のサビ)です。まず、糖質の摂りすぎや血糖値が乱高下するような食生活は、糖化を促進させます。そして、活性酸素が体内に過剰に発生すると、全身が酸化し(サビ)た状態になり、血管の老化も進みます」と赤澤先生。
どのように対策すればいいのでしょうか?
「対策としては、糖化、酸化に気をつけた生活習慣が大事です。糖質と塩分の取りすぎに気をつけて。酸化を進める活性酸素にも注意です。活性酸素は、大気汚染、強い紫外線、喫煙、アルコール、化学薬品、食品添加物、農薬類、運動のやり過ぎ、ストレスなどでも発生します。特に、毛細血管の外側の壁細胞は、糖化や酸化を進める活性酸素に非常に弱いのです。
活性酸素を防いで、糖化と酸化を予防するには、バランスの良い食事、良質の睡眠、血流を上げる運動、入浴、マッサージも、毛細血管力をつけるために大切です」と赤澤先生。
毛細血管の老化の速度を決定づける最大の要因は、食事と生活習慣です。酸化と糖化を防ぐ食事をしていれば、老化は緩やかですが、食習慣がよくないと老化が加速度的に進んでしまいます。
毛細血管の老化が進みやすい生活習慣を送っていないかチェックしてみてください。
「19世紀に活躍した内科医のウイリアム・オスラー医師は“人は血管とともに老いる”と明言を残しました。年齢を重ねることによる老化は避けられませんが、そのスピードを緩やかにすることはある程度可能です。血管老化を遅らせるためにも、食生活、生活習慣を見直してみてください」(赤澤先生)
「血管の老化を遅らせて、ゴースト血管を作らないための対策をご紹介します」(赤澤先生)
・糖質を控え目にする。丼物や麺類などの炭水化物中心の食事ではなく、バランスの良い和定食や食物繊維を多く摂取し、腸内細菌が元気になるような食事を心がけましょう。
・タンパク質を摂ることを心がける。豆腐、大豆(納豆、豆乳)、魚、卵、赤身肉(脂肪の少ない部位)、牛乳など、タンパク質を幅広く摂りましょう。
・塩分少なめに心がける。しょう油はかけずに、つける。ご飯のお供だけをおかずにしない。加工食品を減らす。麺類のスープは残しましょう。
・野菜とフルーツは減塩の味方。食物繊維やカリウムが豊富。ただし、腎臓の悪い方はカリウム摂取に注意しましょう。
・腸内細菌を整える。ビフィズス菌、酪酸菌を摂る。海藻や酢の物がおすすめです。
・心臓や血管はストレスに対してとてもセンシティブ。血圧や血流をコントロールしている自律神経系は、過剰なストレスがかかるとバランスが崩れやすいのです。
・ストレスケアと血管ケアのために、大切なのは呼吸。ゆっくり深―く息を吐くと、休息のときに働く副交感神経を活性化させて、心身をリラックスできます。腹式呼吸がおすすめ。ストレスがあると、呼吸が浅くなるので、吐く呼吸を意識してしっかり行うようにしてみましょう。
・日々の小さなストレス解消から実践して、溜めない工夫を。切り替え上手になれば、心だけでなく体にもいい影響を及ぼします。
・楽しい企画をして楽しい未来を考える工夫をするなど、ストレスに対するコーピングスキル(対処技術)を磨くことも大切です。
・マッサージは、心と体をほぐすケアの定番。軽いマッサージで血流もリンパの流れもよくなります。セルフマッサージは長時間でなく、1回5~10分程度で十分。まずは手先、足先から。
「血海(けっかい)」は、ひざの内側から指3本分、上にあります。血流の流れをよくするツボです。
「足三里(あしさんり)」は、ひざの端から指4本分下。スネの骨の外側のくぼんだところにあります。俳人・松尾芭蕉がお灸をすえていたとして有名なツボ。足の疲れを癒し、胃腸の働きを改善する効果が期待できます。
「三陰交(さんいんこう)」は、くるぶしの内側から指3本分上。冷え改善、生理痛を和らげる、むくみ解消など、女性にうれしい効果があります。
・皮膚に軽い刺激を与えて、全身の皮膚をやさしく刺激して、老廃物を出しやすくします。手でさするだけでも十分です。やわらかい天然素材のボディ用ブラシを乾いたまま使うのもいいですね。皮膚への負担が気になるときはオイルやマッサージクリーム等を使用をおすすめします。強くこすりすぎて、赤くなってしまわないように注意して。
「漢方では、血の巡りが悪く滞った状態を“瘀血(おけつ)”と表現しますが、瘀血タイプの人は、毛細血管にもダメージを受けている可能性がわかってきました。
毛細血管にダメージを受けていると、血流が滞った状態になりがちです。肌トラブル(シミ、クマ、ニキビなど)に悩みやすい傾向があり、また肩こり、関節痛、頭痛なども起こしやすい体質なのです」と赤澤先生。
毛細血管力が低下している瘀血タイプの人には、どのような対策があるのでしょうか?
「瘀血の人への漢方の治療では、桂枝、桂皮(シナモン)や朝鮮人参を含んだ漢方薬を処方します。これらの生薬は、血流をよくする作用があります。瘀血の症状がある人は、漢方薬で治療するのはいいと思います」(赤澤先生)。
また、毛細血管の外側の壁細胞と内皮細胞の接着剤の役割をするタイツー(Tie2)という体内酵素を活性化させ、毛細血管の老化を遅らせる植物もあります。タイツー(Tie2)作用がある植物は、ヒハツ(長胡椒の一種)、月桃葉、ルイボス、ハス胚芽、かりん、スターフルーツ葉などです。
「漢方的に瘀血という状態は、暖かければ上へ昇り、冷えれば下へ降りる性質があります。
更年期世代では、上半身がのぼせ、下半身が冷えてむくむ、いわゆる“冷えのぼせ”の人も少なくありません。そんな人には、桂枝、桂皮や人参などの生薬を含んだ漢方薬が処方されることが多いです」(赤澤先生)。
「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」
滞った「血」の巡りを良くして、のぼせや足冷えなどを感じる人。生理痛、月経不順、月経異常、血の道症などを改善する。
「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」
消化器の働きを高め、栄養を行き渡らせ、「気」と「血」の両方を補う。体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷えなどに。
たくさんの対策の中から、上手に自分に合ったものを探して、対策に役立てましょう。
血管の95~99%を占める毛細血管。毛細血管のダメージが進行すると、血液が流れない「ゴースト血管」となり、血行不良だけでなく、毛細血管の数自体が減少します。毛細血管のゴースト血管化するのを遅らせることが、アンチエイジングにつながります。見た目と血管年齢は、相関していると考えられています。血管年齢や生活習慣をチェックして、食事、生活習慣、マッサージ、漢方薬などで、上手に血管老化を防いで、血管力を高めましょう。
金沢医科大学女性総合医療センターセンター長。1992年金沢医科大学卒業。東京大学第3内科研究医、金沢医科大学循環器内科を経て現職。専門は、女性医療、漢方、高血圧、抗加齢など。血流、血管の中でも特に微小循環に着目、未病の段階から改善する予防医療を実践。著書に『血流美人~温め流し、排出する この3段階で若返る!』、『血管の強化書』(ともにワニブックス)。
30年以上に渡り、女性のヘルスケアと女性医療を専門に取材執筆。乳がんを経験し、女性のがんについて啓発活動を行う。フェムテックのセミナーも好評。著書に『お肌もからだも心も整えてくれる 女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『もう我慢しない!おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)ほか多数。