Bb Beauty Knowledge #7
シリーズ血流のトリセツ vol.1
2023.12.25
悩んでいる女性が多い冷え。冷えは、さまざまな不調の原因になります。冷えを改善することで、肌のくすみや目の下のクマ、生理痛、頭痛、肩こり、便秘、イライラなどもよくなります。内科医で女性医療や抗加齢医学、漢方を専門とする赤澤純代先生(金沢医科大学教授)に、冷えの改善策を聞きました。
取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
スキンケアを丁寧にしているのに、なぜだかくすみや肌荒れが気になる。一生懸命に湿布を貼っても肩こり、腰痛がよくならない。食物繊維を摂っているのに便秘が治らない…。こんな不調に悩んでいる女性は多いはず。もしかしたら、それらの不調の原因は、冷えから来ているのかもしれません。
「冷え症は、全身や手足、下半身など、全身や体の一部が冷えてつらい症状と言われています。女性の冷えからくる症状は、たくさんあって、肌のくすみ、目の下のクマ、生理痛、PMS(月経前症候群)、頭痛、肩こり、腰痛、息切れ、動悸、不眠、イライラ、便秘、下痢、膀胱炎なども冷えからくることが多いです」と赤澤純代先生。
女性が冷えやすいのは、筋肉量が少なくて皮下脂肪が多いこと、冷えやすい服装をしがちなことです。また、冷えやすい食事(食べ物や飲み物)も、冷えの原因になります。
「これらさまざまな原因によって、冷えている人に共通しているのは、微小循環が悪い、即ち血流が悪くなっていることです。体のどこが冷えても不調を招き、それが慢性的になれば、どこかに病気のサインが出てきます。血流が悪くて冷えている人の特徴をあげてみますね。ここに当てはまる人は、冷え解消のための対策をすることをおすすめします」(赤澤先生)
女性の体はデリケートです。毎月の生理、妊娠・出産という大仕事、閉経前後の更年期症状など、女性しか経験することのない体の変化があります。女性には、血流が悪くなりやすく、冷えやすい条件がたくさんあるのです。
「たとえば、こんな人は冷えている可能性があります。めまい、肩こり、頭痛、生理痛などの不調があって、お風呂で温まることで調子がよくなる人です。
目が疲れて、見えにくい人が、目を温めると回復するのは、冷えている証拠。ホットタオルを顔にあてて、肌のくすみが改善する人も冷えています。顔には毛細血管とリンパ管がたくさんありますから、血流が悪い人は、末端まで血液が巡っていないのかもしれません。更年期世代の女性は、自律神経の失調で冷えてしまいます。ただでさえ、自律神経が乱れやすい更年期世代は、ストレスに出合うと途端に自律神経が乱れやすく、冷えてさまざまな不調が出やすいのです。自分らしくいられる居場所があって、ストレスへの対処技術を身に着けて、自己肯定感を持てることは、血流をよくして冷えを防止することにも役立ちます」(赤澤先生)
血流は、細胞機能を維持するために重要な働きをしていて、血の流れが止まったところの細胞は死んでいきます。血流の低下は、細胞が冷えて、代謝の低下へとつながります。
「そうならないために、まず体を徹底的に温めましょう。冷えを改善するためには、血流をアップすること。そのためには、日常ケア、食事、運動が大切です。血流をよくするマッサージや冷え改善の漢方薬も紹介しますね」(赤澤先生)
まず簡単にできて、効果が高い冷え対策は、入浴です。季節を問わず、シャワーだけで済まさずに、湯船にゆっくりつかることが効果的な冷え対策になります。温まる時間は、じんわりと汗をかく程度が目安です。
血流をあげるためには、炭酸系の入浴剤もいいですね。ゆずなどの柑橘系の入浴剤には、落ち込んだ気分を改善する作用もあるようなので試してみてください。また、好きなアロマオイルを入れて香りを楽しむのもおすすめです。
時間があるときは、40℃くらいのお湯の温度にして、心臓より下の部分だけつかる半身浴にしてじっくり時間をかけて温まるのもいいでしょう。肩が冷えてしまう人は、タオルを肩にかけて入ってください。半身浴もじんわり汗をかいて全身がポカポカするのが目安です。
冷えて、湯船で温まりたいけど時間がない人には、緊急的な対策として、ホットタオルや簡易カイロなどで首の後ろを温めるのがポイントです。ほかにも、温めポイントがありますので、イラストで紹介します。
心窩部(みぞおち)あたりを温めて肝臓の血流をよくさせましょう。肝臓を温めることで昔から“肝腎かなめ”と言い、老廃物を効率的に捨てることができます。また、胃腸や子宮などの臓器や、太ももなどの大きな筋肉、わきの下、足首の内側など太い血管があるところを温めることで、全身を芯から温めることができます。
冷えている人は、衣服のちょっとした工夫で、対策ができます。ワンピースより、ブラウスとスカートのようなセパレートの洋服のほうが腰周りの冷え対策になります。
首周りを温めることも大事。ストールを持ち歩いて、寒い日や冷房冷えなどの対策に使いましょう。首を温めることで唾液腺の働きが活発になり、消化吸収が助けられ巡りがよくなります。
ほかにも、ひざ掛け、レッグウォーマー、腹巻きなども上手に使いましょう。冬だけでなく、夏の冷房対策としても常備しておきたいですね。
きつすぎる下着は、要注意です。血流を滞らせ、冷える原因になります。夜、下着を脱いだあとに体がかゆくなったら、締めつけていた証拠です。また、下着は通気性、保温性のいいものに。皮膚は最大の臓器です。ストレスを与えないものを身に着けてください。
血流改善には、食事が大きくかかわっています。食事に気をつければ、早く改善効果を実感できるはずです。
冷えている人にまず取り組んでほしいのは、アイスクリームやスムージー、アイスコーヒーなどの冷たいものを減らすことです。チョコレートやケーキなどのスイーツも同様です。冷たいもの、甘いもの(果糖、ブドウ糖液)の摂取量を減らすと、血流がよくなり、冷え改善効果が期待できます。完全にやめることは難しくても、週5回を週2~3回に減らすことから始めてみてください。
また、化学調味料や食品添加物もできる限り、減らしましょう。インスタント食品には、大事な栄養素が抜けている場合が多く、アミノ酸バランスが崩れやすいので、どうしても食べるときには、大根やキャベツなどの野菜をプラスしてください。
ただし、サラダなどの生野菜やフルーツの食べすぎも体を冷やすので注意しましょう。ナス、キュウリ、トマトなどの夏野菜は、体を冷やす食材です。体を温める食材は、根菜類(大根、ごぼう、人参など)、生姜、にんにく、ニラなどです。
お豆腐を食べるにしても、冷ややっこより、湯豆腐やお味噌汁の豆腐にするなどの工夫で、温かい食べ物を多く摂るようにしましょう。
マッサージも手っ取り早く血流をよくするために、有効な方法です。特に、他人の手によるマッサージは、脳内物質セロトニンやオキシトシンの分泌促進にも役立ちます。マッサージやアロマトリートメントに行ったり、誰かとペアでマッサージし合うのもいいですね。
もちろんセルフマッサージでもOK。セルフマッサージは、長時間行う必要はありません。入浴中やお風呂上りに5分だけでもいいので、継続的に行うことが大切です。湯船で、寝る前のベッドで、マッサージするタイミングを決めてルーティンにできるといいでしょう。
マッサージができないときには、冷たくなっている部分をさするだけでも血流改善効果があります。末梢になればなるほど、筋肉がないので滞ります。指の間をほぐしたり、爪の両側をもむのもおすすめです。
セルフマッサージは、手足の指先から心臓に向かって、全身の皮膚をさすっていきます。全身の皮膚刺激は、血流アップに有効です。また、首周りはとても大切ですので、マッサージの仕方を紹介します。
上半身でマッサージしてほしいのは、顔に近い動脈がある首周りと、老廃物を運んでくる静脈とリンパ管が集まっている鎖骨周りです。
耳の下あたりから後頭部に向かって頭蓋骨のすぐ下を押していきます。さらにリンパに沿って、あご~耳の下~後頭部~鎖骨まで手でさすって流すようにします。
肩の骨のつけ根あたりから、鎖骨の上を体の中心に向かって押していきます。そのあと、同じ方向でさすって流します。
運動は、血流をあげて冷え改善、さまざまな病気予防のエビデンスがあります。筋肉量が少ないと血流は悪くなり、冷えて脂肪を燃やせない、筋肉ポンプが働かない、ますます体は冷えていく…、脂肪がつきやすい体になります。運動で体を温め、負のスパイラルから脱出しましょう。
早歩きで心拍数が少し上がる程度に歩くことが、いちばん手軽にできて効果がある運動です。1日30分を目安に歩きましょう。WHOの指針では、1日10分のウォーキングを3回に分けて行っても、30分連続して歩くのと効果は同じとされています。始めるなら、有酸素運動がいいと思います。そういう意味では、ヨガもいいですね。脚には大きな筋肉があり、筋肉ポンプになるふくらはぎもあります。下半身を鍛えることは、血流アップ、冷え改善に役立ちます。老化防止には下肢筋力が大切です。
忙しくて運動する時間がない、という方は、通勤の往復にひと駅歩く、昼休みのランチは少し離れた店に行く、エレベーターやエスカレーターは使わず階段にする、といったことを心がければ、筋肉量が変わり、冷え改善になります。
漢方薬は、女性の不調対策の味方です。病気になる前の未病の段階で、体調を改善して病気になるのを防いでくれます。
女性の冷え改善は、漢方薬の得意分野です。冷えは、西洋医学では治療対象にはなりません。セルフケアだけでは改善しない冷えには、漢方薬を上手に取り入れてください。
むくみがなく冷えている人に、体を温めて、冷えによる痛みを軽減する作用がある「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」を処方することがあります。
また、冷えて、めまい、耳鳴り、頭痛がある人には、「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」などです。体力が低下して冷えてしまう人には、「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」など血管を安定化させる漢方薬も効果的です。
その人の体質や冷えのタイプ(虚証か実証か、気血水のどこがバランスを崩しているのか)によって、合う漢方薬が違いますので、最初は医師の診察を受けて自分にピッタリ合った漢方薬を処方してもらいましょう。
全身や体の一部である手足、下半身などが冷えてつらいのが、冷え症です。女性の冷えからくる症状は、たくさんあって、肌のくすみ、目の下のクマ、生理痛、PMS(月経前症候群)、頭痛、肩こり、腰痛、息切れ、動悸、不眠、イライラ、便秘、下痢、膀胱炎なども冷えからなのです。冷え改善策は、体を徹底的に温めること。血流をアップするための日常ケア(入浴、衣服)、食事、運動、マッサージを紹介しました。冷え改善の漢方薬も試してみてください。
次回は引き続き、赤澤先生に冷えからくる「むくみ」対策について伺います。朝、顔のむくみが気になる人、夕方に脚がパンパンに張って困っている人はぜひ参考にしてください。
金沢医科大学女性総合医療センターセンター長。1992年金沢医科大学卒業。東京大学第3内科研究医、金沢医科大学循環器内科を経て現職。専門は、女性医療、漢方、高血圧、抗加齢など。血流、血管の中でも特に微小循環に着目、未病の段階から改善する予防医療を実践。著書に『血流美人~温め流し、排出する この3段階で若返る!』、『血管の強化書』(ともにワニブックス)。
30年以上に渡り、女性のヘルスケアと女性医療を専門に取材執筆。乳がんを経験し、女性のがんについて啓発活動を行う。フェムテックのセミナーも好評。著書に『お肌もからだも心も整えてくれる 女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『もう我慢しない!おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)ほか多数。