Bb Beauty Knowledge #8
シリーズ血流のトリセツ vol.2
2024.1.12
夕方に脚がだるくなり、靴がきつくなったり、朝、鏡を見ると顔がむくんでいることはありませんか? そんなむくみを予防し、効果的にケアするには、どうしたらよいのでしょうか? むくみ予防と改善法を赤澤純代先生(金沢医科大学教授)に聞きました。
取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
体内の水分の3分の2は、細胞の間質の中に含まれる水分です。それ以外は、血液に含まれる水分や、細胞と細胞の間を満たしている水分です。これらの水分は、細胞に栄養を送ったり、老廃物を除去したりしています。細胞や血管の中を行き来して体内の水分バランスを保っているのです。
「この体内の水分バランスが崩れて、細胞と細胞の間に水がたまり、通常より増加してしまう状態が“むくみ”です。むくみは、血流が低下しているサインです。体に必要な酸素や栄養は、血液によって体のすみずみに運ばれます。このときに、筋肉を動かすことで血流が促され、心臓に戻る静脈の弁が開き、心臓に血液が戻されます。ところが、体が冷えていたり、筋肉が少なかったりすると、血流が低下してむくみにつながります。デスクワークをしている人が、夕方に脚がパンパンになるのは、下肢の筋肉を動かさなかったために、脚の血流が低下してしまうからです」と赤澤純代先生。
ふくらはぎの筋肉も大事。脚は心臓からもっとも遠くにあるため、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たしています。ふくらはぎは第二の心臓とも言われていて、血液とともに水分を全身に送り、巡らせています。ふくらはぎの筋肉を使わずにいると、重力の影響で水分が下半身にたまってしまい、脚がむくむのです。
むくみの原因はいくつかあり、これらに気をつけることでむくみを予防することもできます。
「血流が悪くなることで体が冷え、さらに水分代謝が低下してむくみの原因になります。むくみによる余分な水分が、血管やリンパ管を圧迫し、さらに血流を悪くさせます。体は一層冷え、むくみがとれない。冷えむくみスパイラルに陥ります。冷えは万病のもとという所以です。むくみ改善のためにも、冷えは解消しましょう」
「塩分の摂り過ぎには、気をつけましょう。体には、体内の塩分濃度を一定に保とうとする機能があります。そのため、塩分をたくさん摂ると、体の塩分濃度を薄めようと、体内に水分を溜め込むようになるのです」
「生理周期によるホルモンの変動で、生理前の時期は、黄体ホルモンが優位になる時期です。黄体ホルモンは、妊娠の準備をする役割があり、体に水分をため込みやすいため、どうしてもむくみやすくなります。特に、PMS(月経前症候群)の人は、むくみやすいと言われています。ほかに便秘やイライラしやすいなどもあります」
「筋肉が少ないことも体に水を溜めてしまう原因です。筋肉には、余分な水分を押し出すポンプ作用があるため、筋肉をつけて、動くことで、むくみの予防になります。人生100年時代、筋肉は大切です。“貯筋”しましょう」
「アルコールもむくみの原因になります。血中のアルコール濃度が高くなると、細胞にダメージを受けやすくなり、血管も拡張して、血管から水分が漏れ出しやすくなるためです」
「アイスクリームやケーキなどの糖質を摂ると、血糖値が急激に上がります。すると血管に負担がかかり、血流が低下して冷えやすく、むくみやすくなります。外来に来る患者さんでも、毎日、スイーツをたくさん食べている人は、血管への負担が大きく、冷え症の人が多いように思います」
ほかにも、睡眠不足、運動不足、ストレスなど、むくみはさまざまな理由で起こります。
「一過性のむくみでなく、数日経っても治らないような慢性的なむくみの原因には、心臓、腎臓、肝臓といった大きな病気が隠れていることもあります。ほかにも、偏った食事による栄養失調、血管が膨らんで脚がむくむ下肢静脈瘤、手術でリンパを取り除いたことで起こるリンパ浮腫などもあります。慢性的に続く場合、大きな病気が隠れている可能性がありますので、医療機関を受診して相談してください」(赤澤先生)
不快なむくみを改善するための方法はいくつもあります。赤澤先生から、効果的なむくみ改善策を紹介していただきました。まずは試してみて、自分に合う対策を見つけてください。
●冷水と温水で洗顔しましょう
朝、起きて顔がむくんでいると感じたら、冷水と温水で交互に洗顔します。冷水と温水を交互にあてることで、血管の収縮と拡張が繰り返されて血流が上がり、むくみが改善されます。
●ホットタオルで顔をあたためて
電子レンジで温めてホットタオルを作り、顔に乗せて温めます。血流を促進して、むくみを解消。朝メイク前に行うと、メイクのりもよくなります。
●クリームでマッサージ
すべりのよいクリームなどを使って、顔と首をマッサージ。まずは、顔の中心から外に向かって、やさしくマッサージ。次に、首周りと耳から鎖骨に向かって流します。
⇒Vol.1 首周りと鎖骨のマッサージ
鎖骨や首の周りにはリンパ節がたくさんあります。強く押さずに、表面をそっとなでるだけでOK。スキンケアのときに行って、普段からむくみ予防しましょう。
●お風呂にゆっくり浸かる
ゆっくり湯船に浸って、しっかり体を温めることで、血流がよくなります。そうすればむくみスッキリです。お湯の水圧で適度な圧がかかり、体内の滞った水を流してくれます。血流をよくするためには、血管拡張作用がある炭酸系の入浴剤を使うのもおすすめです。お風呂に入った後の汗は、余分な水分だけでなく老廃物も一緒に運んでくれてデトックスになります。
●ふくらはぎのマッサージ
血流をよくするためには、末梢のマッサージが効果的です。ふくらはぎは第二の心臓、血流に大きな影響を与えます。日ごろからふくらはぎの状態に気を配りましょう。触ってみて、冷たかったり、硬かったり、むくんでいたら、血流が低下して冷えている証拠。手のひらでさすって温めたり、ツボを軽く押してください。
オイルなどを使って、すべりをよくして、両手でふくらはぎを包み込むように、優しくさすり上げます。ひざ裏のリンパ節まで流します。
次に、両手で足首から少し力を入れてにぎるように持ち、両方の親指で骨に沿ってひざ裏にかけてマッサージしていきます。
親指で押すポイントは、三陰交、足三里、血海の3カ所。イタ気持ちいい程度に親指でグッと押します。
●ストレッチやエクササイズをする
血液やリンパ液など、体内の水分が停滞することでむくみます。水分の停滞を早く改善できるのは運動です。つま先立ちになって、かかとを上げ下げするだけでも、ふくらはぎのポンプ作用でむくみ解消に役立ちます。ひざの曲げ伸ばし、足首を回すなどのストレッチも、固まった筋肉や関節のストレッチになっておすすめです。体内で最も大きな筋肉である大腿四頭筋を使うことで、脂肪燃焼、温め作用が期待できます。太ももの裏側、ハムストリングスにも効くしこふみスクワットを紹介します。
脚を左右に開いて膝を曲げます。お尻を後ろに出さないように、上半身はまっすぐ起こしておきます。この姿勢で、ひざの角度が90度になるくらいまで腰をゆっくり落としていきます。筋肉の収縮を感じながら、ゆっくりもとに戻り5~10回を5セットほど行います。鼠径(そけい)部をゆるめて、骨盤内の血流を改善させましょう。
●カリウムの多い食材を摂る
カリウムが含まれている食品を積極的に摂りましょう。カリウムには、塩分(ナトリウム)を尿として体外に排出する働きがあります。代表的なのは、バナナやリンゴ、メロン、柿などですが、野菜や果物に多く含まれていますので、積極的に摂ってください。
ただし、腎機能が低下している方は、カリウムを含む食材は控えることが重要なため主治医に相談してください。
女性のむくみ改善のために、漢方にはさまざまなお薬があります。女性の冷えからくるむくみに、よく処方する漢方薬をふたつ紹介します。
●「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」:冷えてむくみのある人に処方します。
●「五苓散(ごれいさん)」:水が滞って、頭痛やむくみ、冷えがある人に処方します。
●「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」:生理前にむくんで、頭痛、めまい、イライラのある人に処方します。
体質や冷え・むくみのタイプによって、ピッタリ合う漢方薬が異なります。最初は医師の診察を受けて、自分に合った漢方薬を処方してもらってください。
体内の水分バランスが崩れ、細胞と細胞の間に水がたまり、通常より増加してしまう状態がむくみです。むくみは、血流が低下しているサイン。筋肉が動くことで血流が促されますが、体が冷えていたり、筋肉が少なかったりすると、血流が低下してむくみにつながります。対策としては、入浴などで温めること、マッサージ、筋肉を使うエクササイズなどが効果的です。冷えからくるむくみ改善の漢方薬も役立ちます。
次回は赤澤先生に、血管の99%を占める毛細血管について伺います。ゴースト血管や血管年齢チェックについても紹介します。
金沢医科大学女性総合医療センターセンター長。1992年金沢医科大学卒業。東京大学第3内科研究医、金沢医科大学循環器内科を経て現職。専門は、女性医療、漢方、高血圧、抗加齢など。血流、血管の中でも特に微小循環に着目、未病の段階から改善する予防医療を実践。著書に『血流美人~温め流し、排出する この3段階で若返る!』、『血管の強化書』(ともにワニブックス)。
30年以上に渡り、女性のヘルスケアと女性医療を専門に取材執筆。乳がんを経験し、女性のがんについて啓発活動を行う。フェムテックのセミナーも好評。著書に『お肌もからだも心も整えてくれる 女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『もう我慢しない!おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)ほか多数。